ワインのあるショートラブストーリー

恋とワインのABC Vol.1 ボジョレー・ヴィラージュ

・・・・・登場人物:真理(妹、私) 樹里(姉) 隆志(樹里の婚約者)

「樹里ねぇのバカ!」毛布をかぶって、小さく叫んだ。
私と姉とは2つ違いの姉妹で「樹里・真理」とコンビのように呼ばれ、親戚からもかわいがられていた。 歳の近い姉妹が何かと比べられるのは宿命ともいうけど、私たちも何かと比較され育ってきた。樹里ねぇは昔から勉強ができて背が高く美人で男の子にちやほやされてて、気が強かった。私は成績は中くらいで背は低く、特に目立たずどちらかというと地味な存在だった。

樹里ねぇが2度目の結婚をする。 最初の結婚がだめになって3年経って、今度は幼なじみの「たかじぃ」と結婚するのだと3ヶ月前たかじぃが改まった面持ちで樹里ねぇをもらいに両親に挨拶に来たのだった。両親はこんな娘でよかったら、なんて大喜びでもってたかじぃを迎え、その夜は遅くまで盛り上がっていた。
たかじぃはほんとは隆志(たかし)といい、樹里ねぇとは小学生から高校までずっと一緒の学校で、優等生で優しげな面立ちなのに口数が少なくおとなしいので、樹里ねぇからたかじぃと呼ばれ、何かとこき使われていた。 私もそれにつられて「たかじぃ」と呼び、「たかじぃは、今日は迎えに来ないの?」「たかじぃは、どこに就職したの?」などと、話題にしていた。姉とは近い存在のせいか付き合うこともなく、最初の結婚式の時もたかじぃは友人として出席し、姉の晴れ姿に拍手を送っていたのだった。それがなんで3年経った今一緒になることになったのかわからないけど、たかじぃは私の義理の兄になるわけなのだ。

樹里ねぇが大学3年の夏休みにテニスクラブの合宿があったとき、たかじぃが車で迎えに来て蓼科まで送って行ったことがあった。
「たかじぃ、アッシーだね。ばっかみたい。」玄関先で待つ隆志にそんなことを言ったら、
「真理ちゃん、アッシーなんてよく知ってるね。」なんて笑ってたっけ。
たかじぃには樹里ねぇなんかじゃなく、もっと優しく家庭的な女性が似合うと思う。私だったら、自分しか行かない部活の合宿に送り迎えなんてさせたりしない。
そんなことを考えながら眠ったら、寝坊してしまった。今日は樹里ねぇとたかじぃのいわゆる新居に遊びに行くことになっていて、式はまだだけど籍は入れたというありがちなふたりへの小さなお祝い会なのだ。

呼び鈴を鳴らしたら、たかじぃがいつもの笑顔で出迎えてくれた。
ふたりへのお祝いにあつらえたアレンジメントフラワーを受け取りながら「真理ちゃん、ありがとう。どうぞ。」とたかじぃに促されリビングに入ると樹里ねぇがキッチンで生ハムのサラダのお皿を運んでいるところだった。
「おねぇちゃん、料理なんかするの?」
「するよぉ、来て早々失礼だなぁ。」といつもの調子。
「グラスお願い。」たかじぃに向かって言ったりして「ほい」なんてたかじぃは楽しそうにグラスを右手に2つ左手にひとつ持ちテーブルに運んだ。 たかじぃがコルクを抜き、3つのグラスがきれいな赤ワインで満たされた。
こうしてたかじぃは一生樹里ねぇにお酌をして暮らすんだ。かわいそう・・・
私たちはお祝いの乾杯をした。

樹里ねぇは、チューリップの形のグラスに顔を寄せ香りを嗅いだ。グラスの足を持つ白い指にワインの赤い影が映り、ルビーの指輪のように見えた。注いだ瞬間からイチゴやラズベリー、ブルーベリーなどの華やかなベリーの香りがたった。花の香りもする。意外と濃いルビーの色調、口に含むとフレッシュな酸味と果実味が溢れて、目の前のふたりのようにワインまでるんるんしてるみたいだ。
華やかな赤ワインを酌み交わし、樹里ねぇが席を立ったとき、たかじぃが私のグラスにワインを注ぎながら言った。
「いつも強がってるけど、本当は壊れやすいグラスみたいだって思うんだよ。」
「おねぇちゃんが?」
「うん。辛そうな時ほど突っ張って涼しげな顔してたりしてね。」
「・・・」たかじぃにはそんな風に見えるんだぁ。
樹里ねぇが戻ってきて、「あ〜、あたしの悪口でも言ってたんでしょ。」と私の首の後ろを軽く掴んで笑った。
「そうだよぉ、おねぇちゃんはわがままだから大変だよねって言ってたんだ。」私はそう言ってワインを口に運んだ。
たかじぃは樹里ねぇの空のグラスにワインを注ぎながら笑っていた。
こんなふうに彼は樹里ねぇに一生愛情を注いでいくんだな、と思った。

「樹里ねぇ、おにいちゃん、おめでとう。これからもよろしく。」 ふたりが目を丸くして私を見つめた。 そして次の瞬間3人の笑い声とボジョレーの華やかな香りで小さな部屋がいっぱいに満たされた。


ボジョレーのようなジュースみたいなワインは飲めるかぁ〜〜ドンガラガッシャ〜ン(ちゃぶ台をひっくり返す音)
なんてね、ボジョレ・ヌーボーのお祭り騒ぎを横目にアンチ・ボジョレヌーボーしていた時代もありましたが、いまでは解禁日の夜はヌーボーを飲むためスケジュールを空けております、わははは。大好きなワインのお祭りだもんね。商戦に乗せられてもいいんです。飲みたいんです。別にヌーボーじゃなくともボジョレーのワインは時々飲みたくなるので以前よりも我が家のボジョレー消費は増えているように思います。10のクリュ・ボジョレー(試験のときゴロ合わせで覚えたっけ。サンタムール、ジュリエナス、シェナス、シルーブル、ムーランナヴァン、フルーリー、モルゴン、レニエ、ブルイィ、コートドブルイィ)も良いけど、ボジョレー・ヴィラージュも好きです。
ぶどうなのになんでイチゴの香りがするんだろう・・・何だかかわいらしいじゃないですか。
私が初めてワインを美味しい飲み物だと思ったのは20歳の頃どこかのレストランで飲んだ白の新酒でした。その頃はヌーボーのお祭り騒ぎはありませんでした。ウェイターさんが(ソムリエという言葉も知らなかった)「新酒です。」と言ったのを覚えています。一緒に食事をしたのは恋人ではなく、高校時代の同級生の女性でした。写真は昨年楽しんだノンフィルターのボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボーです。結構色調が濃いですよね。食事はデパ地下で調達したパテ、ゼリー寄せ、焼いたナス、アドカドサラダを詰めたトマト。
ノンフィルターのボジョレヌーボー  ボジョレに合うおつまみ