ワインのあるショートラブストーリー

恋とワインのABC Vol.2 ホワイトジンファンデル

・・・・・登場人物:私(広告代理店勤務)、アイツ(元彼)、カズ(友達)

私は泣いていた。
正確に言えば泣いているのに涙が出ない。
呼吸が止まりそうなくらい胸の中に涙がいっぱい詰まっていて苦しく、何かのきっかけでその涙が全部あふれ出てしまいそうなのに、瞳は乾いたままなのだ。

6年付き合っていた恋人と別れた。
正直に告白すると振られたのだ・・・
20代の6年と言えば女の一番物理的に輝く時期のほとんどを過ごした事になる。
結婚するなら彼と、と心のどこかで思っていたのもうそではなくて、周りの友人たちもそう思っていた。
だから、「別れたの」という報告の電話にみな驚き、一瞬言葉をなくしたくらいだ。

私は小さな広告代理店に勤めており、キャンペーンの現場部隊として運営を任されていた。ポップは効果的か、キャンペーンギャル(ガールとはちょっと違う)はまじめに動いているか、日々の売り上げはもちろん、お客様からの問い合わせ内容の整理など、限りないほど仕事は尽きず、終わらず、部屋に帰れるのも日付が変わってからのほうが多かったのかもしれない。

アイツはそんな現場の中で出会った仕事仲間の一人だった。まじめで、けれど周りの雰囲気を盛り立てるような明るい口調やつまらないギャグも憎めないという人気者だった。一緒に食事をするようになり、愚痴を言い合うようになり、将来の夢を語り合うような青い会話をし、飲みすぎ、ふらふらしながらお互いの部屋を行き来し、お互いの家族と合い、友人を共有し、人生の中で無くてはならない存在になったのだ。

お互いの存在が当たり前になり、忙しさもあり、部屋を行き来することが少なくなり、携帯電話が繋がりにくくなった、そんなある日、私は合鍵でアイツの部屋に約束していない日に行ってみた。見慣れたコーヒーカップ、お箸、タオル・・・以前ならお掃除をして洗濯をして、食事を用意して待って「お帰り〜」なんて驚かしたこともあったのだが、どこか様子が違う。何か別の気配があるのだ。私の知らないバスタオル、マグカップ、ベッドの毛布の様子・・・
こういうとき女というものは不思議なもので決定的な(浮気の)証拠を掴んだと思わない。信じたくない気持ちから見たことを黙殺するのだ。

私は自分の部屋に帰って、深夜アイツに電話をした。見たことを黙殺しておきながら、それとは裏腹に言葉は決定的な質問をしていた。「好きな人ができたの?」
答えはNOではなかった。
なぜこんな風になってしまったのか、私のことを分かっていながらふたりして笑っていたのでしょう、なぜ、もっと早く私へ言いたいことを言わなかったのか、何で平気でふたりと付き合えたの、なぜ、なぜ、どうして?言い訳もしないで逃げるの?私はどうしたらいいの?
これからももっと一緒にいたいという言葉の代わりにまったく別の言葉が口から飛び出す。
それでも最後に「荷物は送るね。今までありがとう。」精一杯の見栄と強がりのセリフを贈り、電話を切った。

もうすぐクリスマス、去年の今頃はふたりで冷たい風がすり抜ける街を腕を組み寄り添い歩き、お気に入りのイタリアンで食事をしワインを空け、部屋に戻り、意味も無くふざけて笑いあいながら暖かい毛布にくるまって眠った。
それはもう二度と訪れない残酷な「思い出」というものになったのだ。

アイツと別れたことをふたりの共通の友人であるカズにも報告をした。私たちをいつも微笑ましそうに優しく見つめていてくれていたので、絶句した時間も少し長めだったかもしれない。わたしは絶望していて、もう疲れてしまって、電話口で不覚にも涙声になってしまったので、カズはびっくりして「今行くから」と電話を早々に切り、車を飛ばし、私の部屋のチャイムを押した。
わたしは疲れた乾いた瞳で「来てくれたんだ、ごめんね」とドアを開け、彼を部屋に通した。
カズはちょっぴり居心地悪そうにソファーに腰掛け、「ワイン好きだったよね、これ、よく分かんないけどよかったら。ごめん、たいしたもんじゃないけどさ。」と私の横にころりとボトルを転がした。
ホワイトジンファンデル・・・「ううん、大好きだよ。ありがとう。」転がったボトルを手に取り、冷蔵庫にしまっておくことにした。

それから数時間、カズは私の愚痴ややりきれない思いを少し切なそうな表情で我慢して聞いてくれて、アイツの方がカズとは付き合いが長いのに私の肩を持ってくれるような言葉を時折挟みながら耳を傾けてくれていた。
「そうだ、ワイン飲む?もらい物だけど。」と笑いながら聞くと、「車だから・・・君が好きなだけ飲むといいよ。」といつもの笑顔。「だよね。じゃあ、お言葉に甘えていただきます。」私はひとりで飲むにもかかわらずふたつのグラスを用意し、「開けて?」と少し甘え口調で言ってみた。カズは不器用な風情でコルクを抜き、ふたつのグラスを満たした。グラスの表面が冷たそうに曇った。
何のために乾杯していいかわからず、私たちはグラスを掲げた。無言で、ためらいがちに合わせたグラスから透き通った音色が響いた。

グラスの中は、ブラッシュワインといわれる、淡い淡いピンク、初夏のそよ風に揺られる花のような美しい色調。いちごや野のベリーやグレープフルーツのフレッシュな香り、ミネラル感、スイカを想像するようなみずみずしさ。口に含むとほんのりと優しい甘みとさわやかな酸味。舌にチリリとわずかな発泡を感じる。
一口飲んで、カズと目が合った。

そのとき、いままで何かにせき止められていた涙が、一気にあふれてこぼれ落ちた。なのになんだか可笑しくて笑いがこみ上げてしまった。「泣くんだか笑うんだかどっちかにしたら」と彼は笑いながら私の頭をぽんぽんと大きな暖かい手で二度軽くたたいて、グラスをテーブルに置き、涙でぐしゃぐしゃになった妙な笑い顔の私を見つめた。
今年も終わりに近づく。季節はずれのようなこのワインは私の悲しみを洗い流し、あと数ヶ月で訪れる春を予感させるような優しさでそっと包んでくれた。

ホワイトジンファンデルの淡い淡いサーモンピンク色で、心の中がほんのり染まっていくのを感じた。


ホワイトジンファンデルなんて水みたいなワインは飲めるかぁ〜〜ドンガラガッシャ〜ン(ちゃぶ台をひっくり返す音again)
ロゼワインは長い間好きになれなかったかわいそうなワインでした。私がかわいそうだと思うのはおこがましくて、好きな人は好きなわけで最近はロゼブームでもあってお店のロゼコーナーが以前よりずいぶん広くなっているように見受けます。ジンファンデルといえばカリフォルニアの赤ワイン主要品種のひとつとして思い浮かぶのだけど、それを何でこんな薄いワインにぃ。
その昔赤ワインが売れずコーラのように飲みやすいワインをということで造られたとも聞いています。なるほどぉ。昼間から冷えたロゼをハンバーガーとともに?サンドイッチもいいわぁ。クラッシュアイスに注いじゃったりして、く〜〜〜っと。実に陽気なワインじゃぁありませんか。しかも、かわいらしいピンク色。ちなみに私はホワイトジンファンデルのスパークリングの方が好きです。スーパーでも売っているベリンジャーのホワイトジンファンデル。たまにおまけもついていて(以前レストランでクマさんのストラップをもらった)「たまには、どう?」なんてボトルが誘います。

天ぷらを塩で食べてみました。もっとドライなシャンパンと合わせる方が個人的には好みでした。サンドイッチととサラダにも○。

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